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2022-07-26 (Tue) 13:48

【怖い話】[桜の木の下には] … 今日の私の仕事は体の弱い母を花見会場まで連れていき、酔った母を無事家まで連れて帰ることだった

2chオカルト板
私が小学校を卒業し、中学生になろうかといった頃の話だ。

三月下旬。その日は地区の子供会が毎年行っている花見の行事があり、私は昼ごろから、母を連れて、大きな枝垂桜がある花見会場へと向かっていた。
昨晩ぱらついた小雨は明け方には止んでおり、他の山桜の様子を見ても心配していたほど散ってはいないようだ。

目的の桜は町の南に位置する山の中ごろにあった。
昔は名士の家だったそうだが、今は改築され、公民館として使われている屋敷の庭の隅に、その立派な根を張っている。
私たちが着いた時にはもう花見は始まっていた。
庭にはゴザと長机が準備され、子供用のジュースにお菓子、大人用の酒とつまみが並べてあった。
見れば、大人たちの半分以上は早くも出来上がっており、子供たちは菓子をつまみにおしゃべりをしたり、木の枝や丸めた新聞紙でチャンバラをしたりと、それぞれ好き勝手に遊んでいる。

今日の私の仕事は、体の弱い母をここまで連れて来ることと、酔った母を無事家まで連れて帰ることだった。
すでに仕事の半分を終えた私は、母を酔っ払いの輪に放り込み、仲の良い友達が来ていないかと辺りを見回した。
けれども、はっきりそうだと言える人物は居なかった。
卒業生は入学準備で忙しい時期だし、それにそろそろ地域の活動とやらが疎ましく思えてくる年頃だ。
私だって、母が行きたいと駄々をこねなければ来なかっただろう。
手持ち無沙汰な私は、とりあえず桜を眺めることにした。

樹齢は四百年とか五百年だとかで、幹は太く樹高は高い。
今は七分咲きほどだろうか。どの方角にもまんべんなく枝を伸ばし、名前の通り、枝先に行くほど地面に向かってしな垂れるその姿は、まるで一本の巨大な傘を思わせた。
その幹に触れようと、桜の木に近づいた時だった。
身体がびくりと硬直する。見上げてばかりいたので気付かなかった。
私のすぐ足元、桜の根の近くに蛇が居たのだ。小さな蛇だった。
片足を宙に浮かせたまま数秒。一つ息を吐いて、足を地面に降ろした。
その蛇は死んでいた。誰かに踏まれたのか頭の部分が潰れていて、前日の雨で微かにぬかるんだ地面に、半分埋まるように横たわっていた。冬眠から覚めるにはまだ少し早い時期だが、近ごろの陽気につられて出て来たか、もしかしたら私達が起こしてしまったのかもしれない。
私はしばらくの間その蛇の死骸を見下ろしていた。
すぐ目の前には満開の桜。後ろの方では酔った大人たちがくだを巻き、子供たちは元気にはしゃいでいる。
そんな中、ひっそりと蹲る頭の潰れた小さな蛇の死骸は、ひどく場違いなものに思えた。
その内、私は靴のつま先で地面に穴を掘りだした。
別に、可哀想だから埋葬してあげよう、などと思ったわけではない。
どちらかと言えば、見られたくないものをこっそりと隠すような、そんな感覚だった。
完成した穴の中に蛇の死骸を蹴り入れ土を被せる。
しばらくの内に、その姿はすっかり隠れてしまい、私は何か一仕事終えたような気分になっていた。

ぱこん。
小気味良い音と共に、脳天に軽い衝撃があった。
驚いて振り返ると、そこには、新聞紙の刀を持ったチビすけが私に向かって満面の笑みを浮かべていた。
どうやら私は一本取られてしまったらしい。

ぐっとこらえつつ、こちらも満面の笑みで両頬をつねり上げてやると、その子はやめろやめろ痛い痛いと泣き笑いながら逃げて行った。
周りを見渡す。花より何とやらとは言うが、大人も子供も、私も含めて、桜をじっくり見てやろうという者は少ないようだった。
さてどうしようか、と思う。何となくこの場に居るのが億劫になっていた私は、母に一言だけ告げると、丁度この近くに住んでいる一人の友人の家へと向かうことにした。
彼の家は、宴会をしている公民館から山の斜面をいくらか上った場所にある。
坂道をぶらぶら歩きながら、私はふと、『桜の木の下には死体が埋まっている』 という、どこかで聞いたことのあるようなフレーズを思い出していた。

人間の死体ではないが、あの大きな枝垂桜の下にも死骸が埋まっている。
私にとって、あの桜は桜であると同時に、一匹の蛇の墓標であるとも言えた。
そうして、そういう見方をしているのが自分一人だけだという事実は、私を何とも言えない妙な気分にさせた。
それにしても、『桜の木の下には死体が埋まっている』 なんて、一体誰が最初に言い出したのだろう。
そんなことをつらつら考えていると、いつの間にか友人の家の前に着いていた。
屋根つきの立派な門をくぐって、広い庭を抜け玄関のチャイムを押す。
誰も居ないのかと思わせる静寂がしばらく続いた後、扉越しに人の気配がした。扉が開き、顔を覗かせたのは友人の祖母だった。

「あ、どうも」

軽く頭を下げる。私とみとめると、彼女は、「うふ、うふ」 と笑った。

「部屋におるよ。呼んでこようかねぇ」

友人は居ますかと聞く必要はなく、彼女家の奥へと消えていった。
その後すぐに友人が現れた。連絡も無しに来たせいか、ほんの少し面喰っているような、そんな風にも見える。
彼はくらげ。もちろん、あだ名だ。
その妙なあだ名は、彼が所謂、『自称、見えるヒト』 であるところから来ている。

彼の目には常人には見えざるモノが映る。
それは、一般に幽霊と呼ばれる存在であったり、神様と呼ばれるような何かであったり、風呂の中に浮かぶ無数のくらげの姿だったりする。
以前、そういった他人には見えないモノが見えることについて私が尋ねると、彼は、「僕は病気だから」 と言った。見えてしまう、という病気。そうして、その病気は感染症だとも言った。
普通の人であれば、到底信じられないような話だ。けれども私は、少なくとも彼がただの嘘つきではないことを知っている。

「よ」
と片手を上げると、くらげは玄関まで下りてきて私の前に立ち、一言、

「……どうしたの?」

と言った。その言い草は、まるで私が悪いニュースを運んできたと思い込んでいるようだった。
とはいえ、どうして来たのかと訊かれると、私にも明確な答えがあったわけではない。
何となく暇だったから来た、というのが本音だが、それをそのまま言ってしまうのも味気ない。
数秒考えてから、私はこう言った。

「今日は天気もいいしさ、花見でもしようぜ」

しばらく無言のまま私の顔を見やっていたくらげは、その表情を変えないまま、「……いいけど」 と言った。

私にとって本日二度目の花見は、そういう経緯で始まった。
その際くらげから、少し降りたところに有名な枝垂桜があると提案があったのだが、それは私の個人的な理由でNGとした。
それに、その枝垂桜には及ばないが、彼の家の庭にも一本だけ桜の木が植えてあった。
二人で縁側に腰掛け、彼の祖母に持ってきてもらった緑茶と煎餅でもって、桜を眺める。
しばらくは、互いに何もしゃべらなかった。
煎餅と茶で口がふさがっていたのもあったが、先ほどの乱雑な花見の後だったので、私としては、こうやってゆっくりと桜を眺められるのも良いもんだ、と素直に思えた。

桜の木は、家を囲む白い塀の傍に植えられていた。
品種はよく分からないが、高さは一階の屋根に届くかといったところで、あまり大きくはなく、花弁の量もそれほど多いわけではない。
ただ、まるで子供が塀の内から外を覗き見ようとしているようなその外観は、見ていて面白いものだった。
何か話そうとして、私は隣の友人を見やる。けれど、言おうとしていた言葉は出てこなかった。
くらげは桜を見てはいなかった。その俯き加減の視線を辿ってみると、彼はどうやら、丁度私達と桜の木の間にある水たまりを見ているようだった。
私の視線に気づいたらしく、ふと目が合った。何見てたんだ。そう訊こうとして、やめた。
代わりに、私はへらっと笑ってから、

「なあ、くらげさ、『桜の木の下には死体が埋まっている』 って聞いたことあるか?」
と訊いてみた。

予期してない質問だったのだろう。
彼は目を瞬かせていた。
どこか驚いているようにも見える。そうして一つ小さく首を傾げてから、彼の目が、何かを思い出すかのように宙を泳いだ。

「カジイモトジロウ?」

その口から、聞きなれない単語が出て来る。「何だそれ?」 と私が訊くと、「それじゃなくて、人だよ。梶井、基次郎」 と彼は言った。

「昔の……、確か大正時代か明治時代くらいの作家。その人が書いた、『桜の木の下には』 っていう話に、そういう言葉が出て来る」

「……お前何でそんなこと知ってんの?」

当然の疑問をぶつけてみると、「本を読んだことあるから」 と如何にもあっさりとした答えが返って来た。

「僕の部屋にあるけど、読んでみる?」

私は以前訪れた彼の部屋を思い出す。
以前は祖父の書斎だったというその部屋には、題名を読んだだけで胸やけをおこしそうな字面の書物がたくさんあった。
「小難しそうだから、いい」
私の返答にくらげは、「そう」 とそれだけ言った。
ちなみに梶井基次郎については数年後、現代文の授業で有名な、『檸檬』 を知り、その作風に興味を覚えるのだが、それはまた別の話だ。
くらげはまた桜の木がある方向に目をやったが、彼が見ているのは相変わらず桜ではなく、その手前の、土の露出した部分にできた水たまりだった。
もしかしたら、水面に映る桜を見ているのかもしれない。それならそれでややこしいことをするもんだ、と私は思った。

「……昔、うちで犬を飼ってたんだ」

突然、くらげが言った。あまりに脈絡のない話に、今度は私が目を白黒させた。

「犬?」

「うん。雑種の子犬。僕が小さかった頃、兄さんが拾ってきたんだけど……」

視線を水たまりに固定したまま、彼は続けた。
「さくらっていう名前も、兄さんが付けた」

私は思わず庭に生えた桜の木を見やった。
その話自体は別に何でもない。
彼の家では以前桜という名前の犬を飼っていて、その犬は彼の兄が拾ってきた。それだけの話だ。
しかし、どうしてくらげは突然そんな話を始めたのだろうか。
じわりと、嫌な予感がした。

――桜の下には死体が埋まっている――

つい先ほど自分が口にした言葉が頭をよぎる。
ただ、彼はそれからしばらくの間口を閉じ、じっと黙りこんでしまった。
どうしてそんな話をしたのか。あの桜の木の下には何かが埋まっているのか。犬はどうなったのか。
くらげには兄が二人いるが、犬を拾ってきたのはどちらか。
訊きたいことは山ほどあったが、私も同じようにじっと黙っていた。
訊けばきっと彼は教えてくれただろうが、そうすれば、彼自身の話がそこで途切れてしまうような気がしたのだ。
桜の木を見やりながら、彼が再び話し出すのを待つ。
いつの間にか、私の視線も桜の花から枝を伝い根もと、地面近くへと降りて来ていた。

「……手を噛まれたんだ」
水たまりを見やったまま、くらげが言った。

「一緒に遊ぼうと思ったんだけど、嫌だったんだろうね……。元々、僕にはあまりなついてなかったから」
言いながら、噛まれた箇所を思い出しているのか、彼は視線の先に右手をそっとかざした。

「でも、その日から、さくらは犬小屋から出て来なくなって。誰が呼んでも怯えるようになって。ご飯も食べなくなって。……気が付いたら、死んでた」
彼の話ぶりは、まるでそれが他人事であるかのように、あくまでも淡々としていた。

私は彼を見やる。
くらげの話はまるで、彼が手を噛まれたせいで犬が死んだのだと、そう言っているように聞こえた。
しかし私には、そんなことは有り得ないと言い切ることができなかった。
くらげが以前口にした言葉が頭をよぎる。
見えてしまう、という病気。そうしてその、『病気』 が感染症であるということ。
いくつもの言葉がのどから出かかって、口の中でぐるぐる回っては引っ込んでいく。
そうして結局、私は何も言うことができず、彼から視線を外し、無言のまま桜の木を見やった。
時間だけが過ぎる。
そうした中、くらげがぽつりと、呟くように言った。

「ハナイカダ」

再び彼の方を見やる。一体何事かと思った。

「そう、花筏。やっと思い出した」

淡々とした口調はまるで変わっていない。けれど私には、その声が先ほどとはどこか違って聞こえた。一方、彼の発した言葉はまるで意味不明だった。

「……何だそれ?」

思わず尋ねると、彼は黙って自分が見ていた水たまりを指差した。

「あそこに一枚だけ桜の花びらが浮いてるんだけど……。あれのこと」

目を凝らすと、くらげの言う通り、水たまりには一片の花びらが浮かんでいた。
花筏。なるほど確かに、その姿は湖に浮かぶイカダのようにも見える。しかしそれは、改めて言われてみなければ分からないほど、ほんの小さな景色だった。

「……お前何でそんなことばっか知ってんの?」
再び訊いてみると、「おばあちゃんから聞いた」 とまた如何にもありきたりな答えが返って来た。
数秒後、私は何故か吹き出してしまった。理由は分からない。
くらげはそんな私を見て、少しだけ不思議そうに首を傾げた。

それからしばらく、茶を飲んだり煎餅を齧ったりくらげと適当な会話を続けたりしていたが、時間も経ち、そろそろ母のことも気になって来たので、おいとますることにした。
くらげは玄関まで見送りに来ていた。

結局、彼が口にした、さくらという名の犬と庭の桜の木について、山のように浮かんだ疑問は未だ山のようにそこにあり、ほとんど何一つはっきりとはしないままだった。
それは私が彼にくわしく訊かなかったせいでもあるのだが、急ぐ必要はなかった。何故なら、私たちは同じ中学に通うのだから。

「なあ、くらげさ」

帰り際、玄関で靴紐を結びながら、私は彼に背を向けたまま声を掛ける。

「この家の下の方にさ、大きな枝垂桜があるだろ」

後ろでくらげが、「うん」 と言った。靴を履き終えた私は立ちあがり、振り返って彼の方を見やった。

「今日ここに来る前さ、あの木の下に蛇の死体を埋めたんだ」

「……え、」

「そんだけ」

ぽかんとしているらしい友人を尻目に、「じゃ」 と片手を上げ、彼の家を後にした。

砂利の敷き詰められた庭を過ぎ、門を出て少し歩いたところで私は立ち止まった。振り向くと、塀の向こうから一本の桜の木が顔を覗かせ、こちらを伺っていた。

――桜の木の下には死体が埋まっている――

私は思う。
その言葉が確かな事実となった人間が、一体この世にどれだけいるのか。多くはないかもしれない。しかし少なくとも、それは自分一人だけじゃないはずだ。そうした想像は、やはり私を妙な気分にさせた。
桜に背を向け、またぶらぶらと歩きだす。

下の花見会場では、久しぶりに飲みすぎたらしい母が、桜の木の下で死体のようになっていた。

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