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2022-08-09 (Tue) 14:40

【怖い話】[水を撒く] … 彼は手桶の中の水に視線を落とし、「今日はそういう日だから」と言った

2chオカルト板
私が中学生だった頃の話だ。

二月の平日。
その日の朝、いつもより随分早く家を出た私は、中学校とは逆方向のとある友人の家へと向かっていた。
冬の空気は澄んでいて、自転車を漕いで火照った体に冷たい風が心地いい。
空は薄曇りだが、降ってきそうな程ではなく、そう言えば一年前は雪が降っていたんだよな、と、そんなことをふと思う。

友人の家は、街の南側にある山を少し登った場所に建っている。
家の周りを囲う塀に自転車を立て掛け門をくぐると、当の友人が一人、玄関先に手桶と柄杓で水を撒いていた。
私に気付いたようで、その手が止まる。
訪ねることは事前に伝えてあったので、驚いている様子ではない。

「よ」

軽く手を上げると、彼も手にした柄杓を微かに上げて見せた。

彼はくらげ、もちろんあだ名だ。
小学時代からの友人で、所謂、『自称、見えるヒト』 でもある。
傍らに歩み寄ると、くらげがちょいと後ろを振り返った。
玄関の戸は少し開いていて、隙間から妙に薄暗い玄関と廊下が見えた。
今日は、くらげの祖母の一回忌に当たる。彼は私服姿で、忌引き扱いにはならないはずだが、今日は学校を休むようだ。

「何してんだ?」

「水を、撒いてるんだけど」

「そりゃあ、見りゃわかる」

この寒さだ。ただの打ち水でないことも、分かる。
すると彼は手桶の中の水に視線を落とし、「今日はそういう日だから」 と言った。

聞けば、彼の家では亡くなった人の魂を迎える際と送る際、家の周囲に水を撒くのだという。
そういう風習があることを、私は知らなかった。

「うちは元々やってなかったみたいだけど……」 彼が言った。
「おばあちゃんの方の家では、そうしてたらしいから」

一人でやってるのか。
言いかけて、止めた。

「上がってもいいか?」

代わりにそう尋ねると、彼はもう一度後ろを振り返ってから、小さく頷いた。
玄関を抜けてすぐ左が居間になる。
くらげの後について部屋に入る。室内には誰の姿もなかった。
丁度一年前、葬儀を行ったのもこの部屋だった。
神棚には供え物と一緒に一枚の遺影が立て掛けてあり、当たり前の話だが、写真の中の彼女は一年前に見た時と全く同じ表情をしている。
隣を見やると、彼もまた普段となんら変わらず、表情は乏しい。
霊前に進み、二礼二拍手一礼。頭を下げ手を合わせ、目を閉じる。
彼女とはこの家で何度か会って、何度か話もした。最初の印象は、しわだらけで、まるで童話に出て来る魔女のようなおばあさんだったのだが、その性格は至って穏やかで、いつか、私が孫のことをくらげと呼んでいることを知ると、ひどく嬉しそうな顔で、「うふ、うふ」 と笑っていた。

目を開く。霊前、写真の中の祖母の表情が変わっている、といったこともなく、彼女はやはりあの皺だらけの笑顔で私のことを見やっていた。
一年前、私はここで不思議な光景を見たのだが、今回は、例えば霊前に無数の光るくらげが浮いている、といったことも無かった。

「ありがとう」

お参りを済まして振り返ると、戸口の辺りで突っ立っていたくらげに礼を言われた。「何が?」 と訊き返すと、彼は小さく首を傾げて、

「……何だろう?」

「何だそりゃ」

「ごめん」

そうして彼は、何故か困ったように、少しだけ笑った。
二人で外に出る。空模様もここに来た時と何も変わらない。
くらげが玄関わきに置いてあった柄杓と桶を拾い上げる。また水を撒くのか。
予定では、お参りが済んだらすぐに学校に向かうつもりだったのだが。何となくそんな気にならず、私は玄関横の壁に背中を預けた。

「そもそもさ、何で水を撒く習慣が出来たんだろうな」

私の言葉に、くらげは一度自分の足元に水を撒いてから、「……おばあちゃんから聞いた話だけど」 と言った。

「こういう日、お盆とか、一回忌とか。昔は、海からここまで大勢で水を撒きながら帰って来たって」

私たちが現在居る家から山一つ越えれば、そこはもう太平洋だ。

「目印だったんじゃないかな」

それ以上、くらげは何も言わなかった。
目印。私は思う。もし
海から水を撒いて戻る行為が目印を残すためだとすれば、それはもちろん、生きた人間のためではなく、そうでないモノたちが、迷わず帰ってくるためのものなのだろう。
何故か、 童話、『ヘンゼルとグレーテル』 で兄妹が落としていったパンくずを思い出した。
ただあのパンくずは確か小鳥に食べられてしまうのだったか。
何にせよ、昔の人たちは、水を撒くことによって海から死者を招こうとしたのだろう。

「……戻ってきた人、見たことあるか?」

訊くと、彼は桶の中の水に目を落として、「無いよ」 と言った。
そうして再びぱしゃりと水を撒いた。
見たことないのに、やってるのか。言いかけて、止めた。
今日はこんなことばかりしている気がする。

「じゃあそれって、海の水?」

代わりにそう尋ねながら、桶を覗きこむ。
三分の一ほどに減った水面にぷつぷつと泡が浮いている。やはり海水のようだ。
その時、ふと水面の泡に混じって、何か別の小さなものが浮かんでいることに気が付いた。何だろうか、丸くて小さな何か。
目を細めていると、くらげも同じように桶を覗きこんできた。

「……くらげが居るね」
くらげが言った。

桶の中には、小指の先程の小さなくらげが一匹、ゆらゆらと揺れていた。
もし私の目が良くなければ、見逃していただろう。

「これ、お前にも見えてるんだよな」

分かりきったことを訊いてみると、彼はこくりと頷いた。

「庭に撒くところだった」

くらげがこぼす。そうして小さく二度、笑った。
血が繋がっているのだから当たり前だが、何となく彼の祖母の笑い方と、少しだけ似ているような気がした。
その後、くらげと二人で裏の山を越えて海へ向かった。
くらげは頑なについて来るなと言っていたのだが、結局、彼の家の電話を借り、身体の弱い母が体調を崩していると嘘をついて、学校はサボることにした。
実際、過去にそういう理由で休んだことが何度かあるので、先生も疑問に思わなかったようだ。
くらげが桶の水をこぼさないようにゆっくり歩くので、峠を越え海が見えた頃には、曇り空の向こうの陽もかなり高くに上がって来ており、結局海に着いたのが昼前だった。
小さな漁港は閑散としていて人影はなく、冬の海はどこか色が暗く静かだった。

くらげが堤防の縁に立ち、桶の中の水をゆっくりと海に撒いた。
海面が一瞬だけ白く粟立つ。
いくら目の良い私でも、さすがに海にまかれた小さなくらげの姿は確認できなかった。
隣のくらげは、しばらく今しがた自分が水を撒いた海面を見やっていたが、その内、防波堤の縁に腰を降ろして、水平線の方に視線を向けたまま動かなくなった。
山越えで疲れたのだろう。少し、休んでいくつもりらしい。

「なあ、くらげさ」
彼の横で立ったまま、尋ねる。

「海に出るくらげって、毎年お盆を過ぎたら出て来るって言うだろ」

「うん」

「あれ、何でだろうな」

隣のくらげが座ったままこちらを見上げた。

「さあ?」

「くらげのくせに、知らねーのかよ」

「……何それ」

その不服そうな呟きに、私は水平線に向かって軽く吹き出し、くらげはそんな私を見て呆れたように小さく息を吐いていた。
くらげが再び桶いっぱいに海水を汲んだため、帰りも行きと同じくらいの時間がかかった。訊けば、明日の朝の分だという。
海水で一杯の桶は結構重いらしく、よろよろしながら歩いていた。
山道を登って下りて、ようやく彼の家にたどり着いた。

くらげはもう疲労困憊といった有様で、とりあえず今から少し寝ると言う。
どうしようかと迷ったが、学校をサボった手前家にも帰り辛いし、さすがに私も少し疲れていたので、一緒に昼寝をさせてもらうことにした。
私もいいかと訊くと、彼はどことなく迷惑そうな顔をしたが、追い出すのも億劫だったのか、「夕方になったら人が来るから、それまでなら」 と言った。
やはり相当疲れているらしく、二階の自室まで上がる気力も無いようで、玄関を上がるとそのまま大広間に入り、押し入れから敷布団を一枚と掛布団を二枚引っ張り出すと、自分はその内の掛布団一枚にくるまるように、畳の上に転がった。私も習って同じようにミノムシになる。
布団からは少し、古くくすんだ匂いがした。
目を閉じたが、ふと、誰かに見られている気がして、布団から頭を出した。くらげは身体を丸めて、頭まで布団の中にすっぽりと隠れてしまっている。逆の方に目をやると、神棚の一番上で祖母の遺影がこちらを見つめていた。
しばらく視線を交わしてから、目を逸らした。

「最初の海の水もさ、くらげが汲んできたのか」

隣の彼に尋ねると、「……朝は、父さんが」 とだけ返って来た。
あまりに眠たそうな声だったので、それ以上何かを訊くことは止めにした。
仰向けになり天井を見上げると、寝転がっているからか、ただでさえ広い居間が余計にだだっ広く感じられた。
そうやって畳の上でごろごろしていると、徐々に深くなる眠気と共に、一年前のことがぼんやりと浮かんできた。

葬式。
私だけに見えた霊前に浮かぶ無数のくらげ。
遺体が火葬場で焼かれている間、外で待っていた時の寒さ。
そう言えば、ヘンゼルとグレーテルの魔女も、最終的にはかまどで焼かれるんだったか。
くらげの兄と父親、亡くなった祖母。異様なほど黒い外観に住んでいる、住んでいた人々のこと。
やっぱり、おかしな家だよな。
取り留めのない記憶や考えが、ふらふらと頭をよぎる。
その内、私は眠りに落ちた。
どれくらい眠っただろうか。ふと気が付けば、寝ている私たちの周りに大勢の誰かが立っていて、私とくらげをじっと見下ろしている。
そういう夢を、見た。

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